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「インタビュー:藤原範子氏(武蔵野赤十字病院元看護師長)」
SDGs教育分野では、全ての人に教育を提供するという目標と、質の高い教育を提供する目標があります。ピーススマイルは後者の支援に入ります。看護師といえば、患者さんに親身に接して下さる印象があります。長年にわたり、大病院で各セクションの看護師長を歴任し、医師、患者、患者の家族など、老若男女問わず、多くの人たちに接してこられた藤原氏。そこで培った経験は、教育者もまた多様な人たちに接する立場として、傾聴に十分値します。
<プロフィール>
赤十字武蔵野短期大学卒業後、41年間、武蔵野赤十字病院に従事。400人の看護師が従事する大病院で、5年目から小児科をはじめ、各セクションで看護師長を務める。
<看護師になったきっかけ>
―なぜ看護師を目指すようになったのですか?
藤原:学生時代から子ども好きで、保育士などをイメージしていました。小学6年生の時に長期の病気になり、看護師というものを知りました。ナースキャップにあこがれたのを覚えています。
<藤原さんにとって看護師とは?>
―大病院において、長年トップで大所帯の看護師部門をまとめあげていたというのは、一看護師としての水準の高さはもちろん、またそれだけの人望とマネジメント力があったことだと思います。あるべき看護師とはなにか、それを熟知してこそだと思いますが、藤原さんにとって「看護師」とはどういう存在でしょうか?
藤原:病院での治療とは、できる限り元の状態に戻してさしあげることです。身体を修復するのは医師の仕事、一方で、心の面で元の状態にしようとするのが看護師の仕事だというプライドも持っていました。
また、患者さんご自身から治そうとするようになるための支援が看護師であり、医師ではなかなかできないところではないかと思います。
―単純に医師と一緒に治療をサポートする、ただ患者さんの面倒を見るというのではないということですね。
藤原:そうですね。若い時からこのように考えていました。よく、先輩の看護師が後輩に、「ちゃんとレントゲンを見なきゃ」とか「心電図はちゃんと読めたの?」とか言う場面を目にしますが、それは勿論ですが、そういう医者ができる面よりは、患者さんがどのように生活しているのか・・患者さんの苦痛や痛みなどを理解する事がもっと大事ではないかと考えていました。そこで患者さんの気持ちとかを分かっているのかと。
医師は診察時間が短いので、カルテで把握するだけになりがちです。しかし、患者さんが美味しそうに食べているかとか、ご飯を半分しか食べてないけど、実は頑張って食べようとしていたかとかを医師に伝えたりしていました。
<医師と看護師の違いとは>
―看護師というと患者さんに寄り添って下さる立場という印象はありましたが、直接診療にあたる医師に劣らずかなり重要な仕事ですね。
藤原:そう思います。本人が生活するにあたりどこが大変なのかとかを理解したうえで助けることが大事だと思います。
また、医師に対して越権行為にならないようにすることですね。医者の使命は救命行為ですから、医師倫理綱領上でそこを尊重しつつ、家族が言ってたことや患者さん本人の言葉を伝え、医師が適切な判断をできるように心がけました。ま、若い時はそういうウィンウィンではなく、自分の主張をしていたような伝え方だったと反省しています(笑)。
<大組織の長、看護師長としての役割>
―病院に限らないことですが、特に大組織の長という立場では大変だったことも多かったと思います。
藤原:そうですね。命に限りがある中で患者さんが生活をどうしたらいいのかを、今となっては普通に考えられるようになりましたが、治療ありき、治療一辺倒のようなところはなかったか葛藤はありましたね。
ですので、「バイタルサインを見逃さない」というのですが、それは看護師がきちんとしているから、そこは看護師に任せて、看護師長としては、患者さんが今日どういうことをしてほしいのかなどを聞いたことも多かったですね。
ですので、家族へ病状説明をする面談時などに、よく医師に呼ばれて一緒に入ったことが多かったです。
<赤十字病院について>
―一般人としては、日赤というと病院の中でもしっかりした病院だという印象が強いです。この病院に勤務することで、看護師として特に気がけたこと、意識したことはありますか?
藤原:赤十字というブランド、「人道と博愛の精神」というのですが、正直、若い時は胡散臭いと思っていたのですが(笑)、何事もその理念で決めていくのをみて、この病院はただ者ではないと思うようになりました。
<病院や医療者が抱える課題とは>
―ぜひ現役の看護師や、看護師長を務める方達のために、どの病院でもありがちな問題や、それに対する解決策などを教えて頂けませんか?
藤原:上の立場から「治療しますよ」となってしまう伝え方があると思います。どういうことかといいますと、「こういうことがあるけどどうしますか」というインフォームドコンセント(※)で、患者さんが全部の選択肢を選べるかというとそうでもないんです。なぜかというと、患者さんのご家族も、こうしてほしいではなく、医師にとにかく何とかお願いしますということも多いので、治療方針において、患者さんが普段どう生きたいのか、どんな生活スタイルをしたいのかとかを考えられていないケースがまだまだあると思われます。医師と患者側、お互いにそういう部分があると感じます。その結果、まだ伝え方が医師から一方的になっている現実を感じます。
※インフォームド・コンセント: 医療者が治療内容などを十分に説明し、患者や家族がそれを理解し納得し、(自分の思いも伝え、)合意したうえでその後の治療法などを選択できるようにすること。
<患者にどういう姿勢で接するべきか - ナイチンゲール精神>
―お話を伺っていると、さすがというか、徹底して患者側の立場に立って接して下さっている姿勢を感じます。重複するかもしれませんが、どういうことを意識して患者さんに接していましたか?
藤原:まず、患者さんに目線を合わせること。患者さんは寝ていて、看護師は立っていますが、立ったまま話しかけるのではなく、寝ている目の高さに合わせます。これは、小児科でお母さんたちから学びました。
また、子どもは言葉でうまく説明できなかったりするから、お母さんが代弁してくれるんですね。子どもに何が心配かとか聞いてあげると、治療と関係ないことを言ったりもしますが、子どもも少し安心していた気がします。それで、目の高さに合わせて、「食べたかったんだね」とか理解してあげることです。
まさにナイチンゲールですね。患者さんの環境を整えてあげる。温度や清潔な空気は勿論、子どもが安らかにいられる環境は何だろうと考えるわけです。やってみて、ナイチンゲール精神て、すごいなと思います。
<患者の手を縛ったりする必要はない>
藤原:ですから、この人は居心地がいいのかなとか気にしていました。寝たきりの方とかに対してもよく感じていたと思います。患者さんが抜いちゃいけないものを抜くことがあるから患者さんを縛るという話を聞くことがありますが、縛らなくても手を握っていてあげると、そういう行動が止まったりするのです。観察していると、これが嫌でとるんだなとわかるんです。必ずとりたがる理由があるんです。
勿論、看護師がずっとそばにいられないので、手を縛らなくていいように、例えば、家族との手術前面談時に、今大事な時でその状況や術後の混乱などを正直に説明すると、殆どのご家族は積極的に見守りたいと希望されます。看護師としては抜かれちゃダメということを先に考えてしまうので抑制しようとしますが、そうではなく家族などに協力してもらうとかはできます。きれいごととか言われるかもしれないけど、看護師でも業務が多いから難しいかもしれないけど、別の形でできないかと思います。
<ピーススマイルをどう思うか?>
―お話を伺えばうかがうほど、まさに人道的な視点でしていらしたのだなと感じます。私たちのピーススマイル・プログラムを直に体験されてどう思われますか?
藤原:まず一番感じたのは、ワークショップなのでステップがあると思いますが、自己肯定感、自分が大切にされているのを感じました。本当の自分を出していいという安心、安全な場所だったり、ワークショップのステップ・ストーリーの中で、笑顔で挨拶とか、ハグとかいきなりは恥ずかしいと思いますが、重ねていくと、自分が大切な存在だと根底から思っている自分がいました。
職場でも、「あの掃除の人」とか、「あの人」ではなく、「○○さんありがとうございます」とか私も声を掛けるようにしていますが、その人の存在を認めるということですね。医療現場でも生かせると思いました。
<ピーススマイルを学校の先生方にも受けてほしい>
藤原:私が小学校3年生の時、凄いと思った先生がいて、名前で呼んでくれたり、「すごくよくできたね」とか「よく言えたね」とか、とにかくやる気を出すようなことを言っていました。その先生の名前はいまだに憶えています。
それもあって新聞などで様々見聞きする中、そもそも学校の先生たちは自分のことを認められているのかと気になります。ですので、むしろ教師の方たちが、子どもたちをちゃんとみてあげるピーススマイルの研修とかできればと思いました。教師自身が自分らしくいられる中で、子どもたちに接してあげれたらいいのにと思ったからです。
<ピーススマイルの魅力>
藤原:前で見本を見せてくれる方達がすごく笑顔なのを見て、笑顔は基本ですが、そこを伝えようというのは、私の中で大きかったです。ネットで笑顔というのを検索すると、作っていそうな笑いはたくさんありましたが、笑顔は感情の基礎だなと改めて思いました。すごいなと思いました。笑顔の人を見ると気持ちがいいし、安心していられます。
―藤原さんもいい笑顔でした^^
藤原:(あとでご自身の写真を見て)私、あんな笑顔していたんだと思いました^^アサーティブトレーニング(※)というのもありますが、足りないものとしてとらえているのかと思うと、必要だなと思いました。
自分が大切な存在とか、自分がちゃんと生きる価値を高めていくのを確かめてくれる場がないので、そういうのを学べる貴重な場だと思います。
このワークショップで、ほめたり励ましたり、握手や拍手などがすごく気持ちいいということを体験して、あなたが大切だということを認められると思いました。
※アサーティブトレーニング:うまく伝えられない行動パターンを練習によって変え、自己表現力を高めていくアプローチ。
(インタビューを終えて)
いかがでしたか?教育者として求められることは多いですが、上から目線ではなく、まず相手をひとりの人として認めて接することがとても大切です。看護師は教育者ではありませんが、あらゆる立場、あらゆる層と接してきた方として、様々学び得るものがあると実感しました。
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